ミュージックレビュー:飛べないモスキート(MOSQUITO)
リコーダーも吹けない筆者が音楽を語るシッタカコーナー第十七弾。今回のテーマは桑田佳祐の『飛べないモスキート(MOSQUITO)』です。
(最近、突然聴きたくなって入手した『孤独の太陽』ばかり聴いているので、この間の『すべての歌に懺悔しな!!』の話と地続きです。。。)
この曲が収録されたアルバム『孤独の太陽』は「ギター一本でロックは出来る」をコンセプトに作られたゆえ、少数の楽器で演奏する曲が多くなっています。また普段は音の一部として扱っている歌詞を詩として作っているような印象があるほか、タイトル曲である『孤独の太陽』をはじめとして、社会の闇、反戦、社会風刺といったダークな歌詞が目立っているのも特徴です。
そんな中で『飛べないモスキート(MOSQUITO)』はアップテンポで爽やかな雰囲気を持っています。しかし、その歌詞はやはり重く、そして他の曲以上に深いものにになっているのです。
筆者は昔から、この歌詞のテーマがわかりませんでした。一見するといじめ問題を扱っているように見えるのですが、明らかに関係のない歌詞があるからです。
今になってネット上の意見も参考にしながら見てみると、その謎が少しだけ解けた気がしますのでまとめてみます。
まずは、歌詞の気になる部分をさらっと見ていきます。
悲しい噂で飛べないモスキート
痛みを避けるため
生命(いのち)をつなぐ赤い川の水
絵になる美談はどこ吹く風
ここの部分は「生命をつなぐ赤い川の水」というのが不明っていうだけで、広い意味でのいじめ問題を指しているのは明らかです。「絵になる美談はどこ吹く風」というのは、部外者が対策を唱えながらも行動に起こしていないことを指しているのでしょう。
現代(いま)では着れないガラスのタキシード
愛する女性のため
壊れて消えた夢のシャボン玉
結ばれたくとも運命は何故?
ここが解釈の最も難しい部分です。未成年のいじめ問題であれば「結ばれる(結婚)」なんて言葉は普通出ませんし、歴史を示唆する「現代」という単語も謎めいたものとなっています。
暗い教室の隅で彼は泣いてる
重い十字架を生きるために抱いてる
あらぬ常識で大人達は逃げてる
遠い世界のようだけど……Feelin' Blue.
サビ。「教室」「大人」と、さも未成年のいじめ問題のように書かれています。しかしこういった問題の場合、原因は小さな揉め事なり取るに足らない特徴であることが多いのに、「重い十字架」という死ぬまで背負っていくような表現があるのは非常に不自然ですね。
生まれた時代に飛べないモスキート
己を守るため
生命をつなぐ赤い川の水
無情という名の去りゆく影
ここから2番。1番と内容的には同じですね。微妙に歌詞が変わっているのにも関わらず、「生命をつなぐ赤い川の水」だけは変えていないのが気になります。
嗚呼 移りゆく世代を超えて同じ
雨に打たれる人はいつも
君のそばにいる Woh・・・
上記の「現代」「時代」と同じで歴史的な意味を感じさせる単語「世代」が出ます。また、サビの「遠い世界のようだけど」を強調するような言葉も出ます。
いつか大空に架かる虹を待ってる
灯る蝋燭をかばいながら生きてる
沖へ遠ざかる希望の船を見ている
どんな答えがあるだろう?……Feelin' Blue.
サビ。「蝋燭の火」は「儚い命」を指すと考えるのが自然。いじめ問題は、残念ながら一般的にはびこっているもので、そのすべてに命の危険があるかといわれれば「ノー」ですから、ここで「蝋燭」が出るのもやはり不自然な表現となっています。
以上のように整然としない歌詞によって、様々な解釈が生まれているようです。以下はその例です。
1.子どものいじめ問題
蚊とは小さく弱い生き物=いじめられる子どもを指し、その苦悩や問題点を表現しているという解釈。
こう解釈するにはあまりにも不自然な歌詞が多く、ちょっと無理がありそうです。
2.エイズ問題
この曲が発表されたのが第一回AAA(Act Against AIDS)の翌年であったことから、AAA参加アーティストのひとりである桑田が、エイズ問題について表現しているという解釈。
エイズ研究にも関係する「蚊」、血管を表す「生命をつなぐ赤い川」のほかにも、「重い十字架」「蝋燭」なども納得できます。エイズ患者は結婚も難しいでしょうけど、もしかしたら「ガラス(「脆い」ではなく「透明」)のタキシード」はコンドーム→性交を示唆しているのかなと思ったり。「希望の船」は「世界の英知」とも考えられそうです。
3.差別問題 - 部落
差別問題の中でも、特に穢多(えた)と呼ばれた人たちのことを指しているのではという解釈。
穢多の仕事のひとつとして、川の側での牛馬の死体処理があったそうで、「生命をつなぐ赤い川の水」はそれを指しているのだ、と。「世代」など歴史をにおわせる単語とも意味が通じますし、部落出身者は結婚が難しいともいわれていますから、全体的に意味が通りそうです。この解釈では「ガラスのタキシード」は「夢のシャボン玉」とかけた「儚い夢」を指すことになるのでしょうか(それとも単純に一度しか着ないということ?またはシンデレラとかけている?)。
ただ、2点。「現代では着れないガラスのタキシード」は「現代でも」となるべきではないかということと、「灯る蝋燭」がしっくりきません。
4.混合
どれを取っても完璧な解釈にならないので、結局は上記のような総合的ないじめ問題を扱っているのではという解釈。
個人的には、これらのどれとも違って「『いじめ問題』と『エイズ感染者への差別』の本質は同じ」というメッセージだと思っています。
「移りゆく世代を超えて…」や1番のサビ「暗い教室の…」は差別全体の本質を表す比喩なんじゃないかと。最後はエイズ問題(2番のサビ)に結び付けて、啓発する内容になっているように思えます。
今から17年前にリリースされた『孤独の太陽』ですが、こうやって歌詞を見ていくと日本という国がいかに進歩していないか、もしかしてこういうのが国民性なんじゃないかと悲しくなってきます(差別は人類永遠の問題ですが)。インターネットの普及で誰もが情報を発信し、それにより情報の巡りが何倍も早くなりましたが、これがすべての世代に行き渡ったとき、この国も変わっていくのでしょうかね。
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(最近、突然聴きたくなって入手した『孤独の太陽』ばかり聴いているので、この間の『すべての歌に懺悔しな!!』の話と地続きです。。。)
この曲が収録されたアルバム『孤独の太陽』は「ギター一本でロックは出来る」をコンセプトに作られたゆえ、少数の楽器で演奏する曲が多くなっています。また普段は音の一部として扱っている歌詞を詩として作っているような印象があるほか、タイトル曲である『孤独の太陽』をはじめとして、社会の闇、反戦、社会風刺といったダークな歌詞が目立っているのも特徴です。
そんな中で『飛べないモスキート(MOSQUITO)』はアップテンポで爽やかな雰囲気を持っています。しかし、その歌詞はやはり重く、そして他の曲以上に深いものにになっているのです。
筆者は昔から、この歌詞のテーマがわかりませんでした。一見するといじめ問題を扱っているように見えるのですが、明らかに関係のない歌詞があるからです。
今になってネット上の意見も参考にしながら見てみると、その謎が少しだけ解けた気がしますのでまとめてみます。
まずは、歌詞の気になる部分をさらっと見ていきます。
悲しい噂で飛べないモスキート
痛みを避けるため
生命(いのち)をつなぐ赤い川の水
絵になる美談はどこ吹く風
ここの部分は「生命をつなぐ赤い川の水」というのが不明っていうだけで、広い意味でのいじめ問題を指しているのは明らかです。「絵になる美談はどこ吹く風」というのは、部外者が対策を唱えながらも行動に起こしていないことを指しているのでしょう。
現代(いま)では着れないガラスのタキシード
愛する女性のため
壊れて消えた夢のシャボン玉
結ばれたくとも運命は何故?
ここが解釈の最も難しい部分です。未成年のいじめ問題であれば「結ばれる(結婚)」なんて言葉は普通出ませんし、歴史を示唆する「現代」という単語も謎めいたものとなっています。
暗い教室の隅で彼は泣いてる
重い十字架を生きるために抱いてる
あらぬ常識で大人達は逃げてる
遠い世界のようだけど……Feelin' Blue.
サビ。「教室」「大人」と、さも未成年のいじめ問題のように書かれています。しかしこういった問題の場合、原因は小さな揉め事なり取るに足らない特徴であることが多いのに、「重い十字架」という死ぬまで背負っていくような表現があるのは非常に不自然ですね。
生まれた時代に飛べないモスキート
己を守るため
生命をつなぐ赤い川の水
無情という名の去りゆく影
ここから2番。1番と内容的には同じですね。微妙に歌詞が変わっているのにも関わらず、「生命をつなぐ赤い川の水」だけは変えていないのが気になります。
嗚呼 移りゆく世代を超えて同じ
雨に打たれる人はいつも
君のそばにいる Woh・・・
上記の「現代」「時代」と同じで歴史的な意味を感じさせる単語「世代」が出ます。また、サビの「遠い世界のようだけど」を強調するような言葉も出ます。
いつか大空に架かる虹を待ってる
灯る蝋燭をかばいながら生きてる
沖へ遠ざかる希望の船を見ている
どんな答えがあるだろう?……Feelin' Blue.
サビ。「蝋燭の火」は「儚い命」を指すと考えるのが自然。いじめ問題は、残念ながら一般的にはびこっているもので、そのすべてに命の危険があるかといわれれば「ノー」ですから、ここで「蝋燭」が出るのもやはり不自然な表現となっています。
以上のように整然としない歌詞によって、様々な解釈が生まれているようです。以下はその例です。
1.子どものいじめ問題
蚊とは小さく弱い生き物=いじめられる子どもを指し、その苦悩や問題点を表現しているという解釈。
こう解釈するにはあまりにも不自然な歌詞が多く、ちょっと無理がありそうです。
2.エイズ問題
この曲が発表されたのが第一回AAA(Act Against AIDS)の翌年であったことから、AAA参加アーティストのひとりである桑田が、エイズ問題について表現しているという解釈。
エイズ研究にも関係する「蚊」、血管を表す「生命をつなぐ赤い川」のほかにも、「重い十字架」「蝋燭」なども納得できます。エイズ患者は結婚も難しいでしょうけど、もしかしたら「ガラス(「脆い」ではなく「透明」)のタキシード」はコンドーム→性交を示唆しているのかなと思ったり。「希望の船」は「世界の英知」とも考えられそうです。
3.差別問題 - 部落
差別問題の中でも、特に穢多(えた)と呼ばれた人たちのことを指しているのではという解釈。
穢多の仕事のひとつとして、川の側での牛馬の死体処理があったそうで、「生命をつなぐ赤い川の水」はそれを指しているのだ、と。「世代」など歴史をにおわせる単語とも意味が通じますし、部落出身者は結婚が難しいともいわれていますから、全体的に意味が通りそうです。この解釈では「ガラスのタキシード」は「夢のシャボン玉」とかけた「儚い夢」を指すことになるのでしょうか(それとも単純に一度しか着ないということ?またはシンデレラとかけている?)。
ただ、2点。「現代では着れないガラスのタキシード」は「現代でも」となるべきではないかということと、「灯る蝋燭」がしっくりきません。
4.混合
どれを取っても完璧な解釈にならないので、結局は上記のような総合的ないじめ問題を扱っているのではという解釈。
個人的には、これらのどれとも違って「『いじめ問題』と『エイズ感染者への差別』の本質は同じ」というメッセージだと思っています。
「移りゆく世代を超えて…」や1番のサビ「暗い教室の…」は差別全体の本質を表す比喩なんじゃないかと。最後はエイズ問題(2番のサビ)に結び付けて、啓発する内容になっているように思えます。
今から17年前にリリースされた『孤独の太陽』ですが、こうやって歌詞を見ていくと日本という国がいかに進歩していないか、もしかしてこういうのが国民性なんじゃないかと悲しくなってきます(差別は人類永遠の問題ですが)。インターネットの普及で誰もが情報を発信し、それにより情報の巡りが何倍も早くなりましたが、これがすべての世代に行き渡ったとき、この国も変わっていくのでしょうかね。
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